「FX戦士くるみちゃん」は、FX漫画の中で最もリアルだと言われている。
原作者のでむにゃんが実際にFXで損失を経験しているから、心理描写の精度が異常に高い。
でも、漫画は漫画だ。現実との間には、致命的なギャップがある。
「漫画がリアルだから、現実もあの程度だろう」と思ったら大間違いだ。
現実の方が、はるかにひどい。
損失のスピードが違う。
現実は「一瞬」だ。
くるみが損失を出す過程は、何話もかけてドラマチックに描かれる。読者は「ああ、やめとけ」と思いながら見守れる。
スイスフランショック級の急変動は、数分で口座が吹き飛ぶ。考える時間すらない。画面を見た時にはもう終わっている。
漫画はエンターテインメントだから、損失に至る過程を丁寧に描く必要がある。
でも現実のFXでは、朝起きたら口座がマイナスになっていたということが普通に起きる。
2015年のスイスフランショック。ユーロ/スイスフランが数分で約3800pips暴落した。
多くのトレーダーがロスカットすら間に合わず、口座残高がマイナス——つまり借金になった。
漫画のように「含み損が膨らんでいく」描写を見る余裕すらなかった。
俺の最大の損失は、寝てる間に起きた。
夜中に要人発言があって、朝起きたらロスカットされてた。
チャートを見る前に通知が来てた。「お客様の口座残高がマイナスになりました」。
漫画みたいに「うわああ」と叫ぶ暇すらなかった。ただ、固まった。
助けてくれる萌智子は、
現実にはいない。
くるみが自殺を図ろうとした時、萌智子が止めてくれた。最後には父親にすべてを打ち明け、自己破産の道が開けた。
誰も止めてくれない。FXの損失を打ち明けられる相手がいない人がほとんど。孤独の中で追い詰められていく。
漫画には「仲間」がいる。くるみには萌智子がいて、芽吹がいて、やす子がいる。
最悪の瞬間に誰かが手を差し伸べてくれる。
現実のFXトレーダーは、圧倒的に孤独だ。
家族には損失を隠す。友人には「ちょっと投資やってる」としか言わない。
SNSのFXコミュニティは「自己責任」の一言で終わる。
追い詰められた時に、本気で助けてくれる人間は、自分で作っておかないと存在しない。
くるみちゃんには萌智子がいた。
お前には、誰がいる?
「やり直し」のチャンスが多すぎる。
現実は一発退場がある。
くるみは何度も大損しながらも、資金を工面してFXに復帰する。父の300万を流用し、萌智子から借り、何度もチャンスがある。
資金が尽きたら終わり。借金して続ける人もいるが、それは「チャンス」ではなく「地獄の延長」だ。
漫画では物語を続けるために、主人公に資金が供給される必要がある。
だからくるみは父の貯金を盗み、何度も復帰できる。
現実では、使える金がなくなった時点で「強制的に」終わる。
問題は、そこで終われない人間がいることだ。
消費者金融、カードローン、闇金。
「借りた金でFXをやる」という時点で、もう取り返しはつかない。
漫画のくるみはフィクションの中で自己破産できた。現実では、自己破産すらできない状況に陥る人がいる。
身体が壊れる描写がない。
現実は心も体もやられる。
くるみの精神的な苦しみは丁寧に描かれるが、身体的なダメージはほとんど描写されない。翌日も普通に大学に行ける。
睡眠障害、胃潰瘍、円形脱毛症、不整脈。FXのストレスは確実に身体を蝕む。
漫画では描ききれない、現実のFXトレーダーが経験する身体症状。
FXをやっていた6年間で、10kg太った。ストレスで食べるか、ストレスで食べないかの二択だった。
歯ぎしりがひどくなって歯が欠けた。帯状疱疹も出た。
全部、FXのストレスが原因だった。やめたら半年で治った。
「面白い展開」がない。
現実はただ地味に削られるだけ。
ドラマチックな相場変動、キャラ同士の掛け合い、一発逆転の場面。読者を飽きさせない展開が続く。
地味にスプレッドで削られ、地味に損切りを繰り返し、地味に資金が減っていく。ドラマはない。
漫画はエンターテインメントだから、見せ場が必要だ。
大暴落、一発逆転、ロスカットの瞬間の絶叫。
でも現実のFXは、99%が退屈な時間だ。
チャートを見つめる。何も起きない。待つ。エントリーする。少し動く。損切りする。
また待つ。エントリーする。少し勝つ。喜ぶ。次に負ける。
地味な負けが積み重なって、気づいたら100万円なくなっている。
くるみちゃんの物語には「見せ場」がある。
現実のFXには、見せ場すらない。ただ、金が消えていくだけだ。
でも、漫画が正確に描いている部分もある。
ギャップばかりではない。
「FX戦士くるみちゃん」が恐ろしいほど正確に描いている部分がある。
「取り返したい」という感情の支配力。
くるみが母の2000万を取り返すためにFXを始め、損失が膨らむほど「取り返す」への執着が強くなる。
これは現実のFXトレーダーが全員経験する心理だ。完璧に描けている。
「もう少しだけ」の無限ループ。
あと1回。あと1万円だけ。あとこのトレードが利確できたら。
この「もう少し」が永遠に続く感覚。くるみちゃんの心理描写は、この部分に関しては非の打ち所がない。
周囲の人間の巻き込み方。
父の300万を盗む。芽吹を巻き込む。
FXは本人だけの問題じゃない。家族も友人も巻き込む。
この描写も、現実と完全に一致している。
心理描写は正確。でも「痛み」の表現は漫画の限界がある。
現実の痛みは、ページをめくっても消えない。
漫画は「優しい」。現実は「容赦ない」。
くるみちゃんのFXがリアルだと思ったら、
現実はそれ以上だと知っておいてくれ。
漫画で胃が痛くなるなら、現実では確実に壊れる。